民主党 衆議院議員 小川淳也
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〜会議録(3月17日総務委員会)〜

○小川(淳)委員 民主党の小川淳也でございます。

 参考人の先生方には、きょうは、本当にお忙しい中、貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございました。
  私は、二〇〇五年の郵政解散で初当選させていただきまして、きょう、いろいろなお話をいただきながら、あのときの熱狂を思い返しておりました。あの熱病とも言えるような民営化に向けた機運が一体何だったのか。それが三年半たっていろいろな形であらわれ出て、その一つが、今回のかんぽ問題なんだろうと思います。
  先生方のお話をきょうお聞きしていて、大中小、三つのことについてお聞きをする必要があるなと改めて思いました。
  小とは、まさに井手先生がおっしゃいました、今回のかんぽ問題、かんぽ施設の売却問題だろうと思います。中は、その背景でもあります、郵政の民営化そのものに対する評価。そして、大は、一番大きな話は、そもそも、民営化とか市場原理とか、あるいは競争社会とかいったような価値観そのものをどうとらえ、どう修正していくのか。この大中小にそれぞれスケールを分けてお尋ねをさせていただく必要を感じた次第でございます。
  そこで、まず、田尻先生、きょうは我が党の要請に応じていただきまして、ありがとうございました。先生は、日経新聞社にお勤めになられて、その後、世界の通貨、銀行、金融市場等に関して大変な造詣を深めておられる。その知見からいただいたきょうのお話、株主に地域代表を入れてはどうか、あるいは長期の株主には特別に議決権を割り増してはどうか、大変、目からうろこのような思いでお聞きをいたしました。
  といいますのも、この間、これは私の持論なんですけれども、資本主義と社会主義が百年戦争を繰り返したのが二十世紀ではなかったかと思います。ベルリンの壁の崩壊と同時に社会主義との百年戦争に勝利した資本主義が、まさに暴走しておごり高ぶったのが、八〇年代後半からこの二〇〇〇年代後半にかけての二十年ではなかったかと思います。それが象徴的にあらわれたのが去年の秋の世界的な金融危機。大きな歴史でいきますと、そういった位置づけができるのではないかと思います。
  そこで、田尻先生にまず大きな話をお伺いしたいんですが、先生のある寄稿を拝見しました。人類社会が株式会社を生み出して以来の進化の過程の到着地点としての社会的企業、これは、事業の規模、運営形態を問わず、ビジネスとして採算性を確保しながら、なおかつ公共性の追求と社会的使命を果たしていこうとする事業体。非常にすばらしい定義だと思います。  では、これをどうやって具体的に制度に落とすのか。おっしゃった、株主に地域代表、長期の議決権の割り増し、そしてリバースモーゲージ、さまざまなお話をいただきましたが、この点、さらに具体的に補強する手段があるのかないのか。利益を極大化することのみに血眼になってきたこれまでの資本主義社会に対して、公益性、社会性を追求するには、具体的な制度設計として、既におっしゃったものも含めてほかにどういう考え方があり得るのか、ぜひ御示唆をいただきたいと思います。

○田尻参考人 まず、規制緩和とか自由化という問題が、二〇〇五年当時は、経済のシステムには二つの側面があることを全く無視して議論されたように感じております。

 つまり、経済というのは、物をつくって販売するという実体経済のサイドと、もう一つは、その決済、もしくはお金がお金を生むという金融経済という二つの側面を持って、表裏一体として機能しておるものでございます。ところが、これまでの市場原理主義者は、それを一緒くたにいたしまして、すべて自由化する市場原理が機能するものだというとらえ方をしてきたわけでございます。
  しかしながら、経済学におきましては、この金融経済と実体経済の違いというのは、これは伝統的にきちんと理解されていたことでございます。すなわち、金融自由化と国際貿易の自由化等の、いわゆる物とマネーの世界では、自由化の度合いとか進め方というのは全く違った取り組みが必要だというふうに考えられてきたわけでございます。
  それが、一九八〇年代に、新古典派と呼ばれる人たちのグループによりまして、それが同じであるかのように言われたわけでございます。アメリカの経済学者の間でも、金融システムの自由化問題は、これまでガットを中心とする自由貿易体制を強く推進してこられた学者グループの中でも、金融システムだけは別だというとらえ方をしている論文も多く見られるわけでございます。その点が、日本国内におきましては、不幸にも一緒くたにされてしまったという思いを持っております。
  先ほどの御質問の中で、どのように公益性を私企業の中に反映させていくかと。これは、政府による直接介入、補助金等による誘導政策、公的規制、あるいは、政府による直接のライバル企業、かつては官業としての郵貯がございましたが、そうしたものと私企業を競争させることによって私企業の行動を牽制するという、大きく分けますと四つぐらいの方策がございました。
  しかし、今日では、市場のメカニズムを通じてどうコントロールしていくかという方策で、先ほど申し上げました方策に加えまして、例えば外資の比率についても、日本郵政グループを市場公開いたしましたときにどこまで認めるのかということについては、現在何のガイドラインも客観的なものも示しておられないわけでございます。これはぜひ国会において御議論をいただきたい点でございます。
  さらに、外資が敵対的買収をいたしました際に、日本郵政グループは、ライツプランと申しまして、新株予約権を与えるという方策も検討されておられるようでありますけれども、こうした敵対的TOBに対する防衛策のあり方ということについても、本委員会でぜひ御議論いただければと願っております。

○小川(淳)委員 ありがとうございます。

 これまでは、多分、収益は絶対の正義という価値観が続いたんだと思うんですが、これはどなたの言葉だったかあれなんですが、「売り手よし、買い手よし、世間よし」。今までの、収益を最大化するということは、つまり売り上げを最大化して経費を最小化するという二次元的な物の考え方。このXとYに対して、もう一つZ軸といいますか、三次元的な考え方を入れていけるかどうか、恐らくこれから、それこそ次の百年をにらんだときに、思想的なことも含めて価値観の大きな転換が必要なんだと思います。
  そこへ、やはりこの場は国会でありますし、法制度を扱うわけですから、具体的にこれから制度設計を考えないといけないわけですけれども、きょう先生から御示唆いただいたような点はぜひ大いに参考にさせていただきたいと思いますし、これからもさまざまな研究成果に御期待を申し上げたいと思います。
  次に、中ぐらいの話を井手先生にお尋ねしたいと思うんですが、井手先生まさにおっしゃいました、かんぽの施設の売却問題というのは小さな問題だと。いただいた資料の中にも、民営化そのものについて疑念や反対の意見はあるが、踏み出した以上、きっちり進めないといけないと。
  郵政の民営化を前提にした中での御議論をきょういただいたと思うんですが、一歩さかのぼりまして、そもそもこの郵政三事業、金融二事業と全国あまねく同一料金でやっている郵便事業を一括して民営化するというところに、私は非常に無理もあったんじゃないかなという気もしているんですが、一歩さかのぼって、この郵政の民営化そのものについての先生の御見解をお聞きしたいと思います。

○ 井手参考人 本来、そういうことを議論するつもりはなかったんですけれども。

 民営化というのは、競争原理を導入するということで一方では評価されるわけですけれども、やはりイギリスもあるいはアメリカも、特にイギリスは民営化をいたしましたけれども、これは壮大な実験でありまして、そういう試行錯誤の中で、もし悪い点があれば直す。それから、アメリカの場合にはまだ公社化のままで、しかしながら、郵便について、あるいはイギリスの場合でもそうですけれども、ユニバーサルサービスをどうやって維持するかということは、これは民営化する、なしにかかわらず、国民の利便性を向上するという意味では非常に重要な点であるということです。
  民営化がどうだったかということについて、これはこの場ではなかなか一言で申し上げるのは難しいんですけれども、民営化にも民営化のやり方があるということであります。
  したがって、一たん踏み出したけれどもやはり問題があればそこで修正をしていくということが非常に重要だろう。これは私の研究分野で、電力でもガスでも通信でも運輸でもそうですけれども、諸外国、あるいはそういったいろいろな事業においても、市場原理を入れるということはある意味では反対ではない。しかしながら、やり方の問題であるということであります。
  お答えになっていないかもしれませんけれども、市場原理で一つの問題としては、例えばモラルハザードというのはたまさか起こるものではなくて、こういった民営化によって頻繁に起こるものだという認識を持たなければいけない。あるいは、競争原理を導入することによって既存企業というのは常に悪いことをする、新規参入企業はいいことをする、そういった対立構造の中で我々は議論をするといったことも、経済学者の責任でもあるわけですけれども、改めないといけない点であろう。  結論的に申しますと、民営化の是非については、やり方ということを考えながら、もし悪い点があれば修正をしていくということが必要だろうというふうに思います。

○ 小川(淳)委員 ありがとうございます。

 きょう、井手先生のお話をお伺いしながら、これもどなたの言葉だったでしょうか、「本を忘れず、末を乱さず」という言葉を思い返しておりました。確かに、三十万人で三百兆円の資産を運用していますから、今回のかんぽ問題というのは、それからいいますと百億で、三百兆円との比較でいえば非常に末端の話かもしれません。
  しかし、今回の一連の経過の中で明らかになってきた売却の過程であるとか、あるいは売却先、そして、場合によってはそれで多額の利益を上げかねない方々の存在、一見末端でありますが、ここに信頼性のある取り扱いが本当にされているかどうかは、実は、三百兆円全体の郵政事業に対する信頼にかかわるという意味で、民営化だからしようがないんだということにはなかなかならないんでしょうし、根本のところはしっかりと忘れず、しかし、末端の、靴の泥といいますか、末のところを乱したのでは全体の信頼性にかかわるという、バランスのとれた議論をぜひこれからも先生の御指導をいただきながら国会で続けていきたいと思います。
  最後に町田先生、小さなところで、このかんぽ問題、きょういただいた御報告は、他のお二方と比べますと非常に現場の、場合によっては不祥事的な材料もたくさん御報告をいただきました。
  これは私どもとしても非常にジレンマなんですが、郵政の民営化がこれから順調に進めば進むほど、政府なり国会から遠い存在になってまいります。いろいろな情報の開示あるいは説明責任を国会としてもどんどん求めづらくなっていくわけでありまして、そうなればなるほど、町田先生のジャーナリストとしてのいろいろな調査ですとか、あるいは世間に対するメッセージの発し方というのは非常に重要になってこようかと思います。  その観点から、これからもぜひ御活躍を祈念申し上げる立場から、非常に御苦心の多いことと思いますが、日ごろの取材の御苦心なり国会に対する御期待なりがございましたら一言いただいて、質疑を終えたいと思います。

○ 町田参考人 お答え申し上げます。

 枠組みの問題自体は、法律で規定していますから、ディスクロージャーの義務であるとか、それは一般に対するディスクロージャーもあるでしょうし、国や国会、もしくは株主の国に対するディスクロージャーもあると思います。
  それから、株主権は今一〇〇%財務大臣が保有していますから、株主にとってメリットのあるかんぽの宿の売り方であったのかとか、そういう観点からも追及していただくといいのではないかなと思っております。  よろしくお願いします。

○ 小川(淳)委員 ありがとうございました。

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