〜 年金制度の本質論(2004/5) 〜
年金制度の本質論について、少なくともここではきちんと議論させてください。
■そもそも、なぜ年金制度の信頼が揺らいでいるのか
この国の最大のリスクは人口減少と人口構成の変化です。
年金については原資を負担する若い世代が減少し、給付を受ける高齢世代が増加している ことで収支バランスが崩れている、それが年金制度の最大のリスクです。要するに「 金が足りない」のです。
■ではどうすれば良いのか
ことはお金の問題ですから、答えは簡単です。
収入を増やす(保険料を上げる)か、支出 を減らす(給付を下げる)のいずれかしかありません。
概ね今の政府案はそれを10年以上かけて 行おうとしています。
■では政府案でよいのか?
問題はそこです。まず給付の引き下げについてですが、これは老後の生活保障であると同時に、 将来に渡る年金制度への信頼もかかっていることから、極端な引き下げは難しいのが現実です。
一方、保険料負担は現在労使折半となっていますが、既に勤労者・会社双方に大きな負担が かかっており、これ以上の負担増は、会社に社員の採用を見送らせ、パートやアルバイト へのシフトを加速します。
これは雇用不安につながると同時に、最大の問題 は保険料率を上げれば加入者(社員)が減少し、さらに保険料率を上げなければならない、という 悪循環に陥ることです。既に限界なのです。
■さらに国民年金の問題
国民年金については、今未納率が4割に達しており、制度的には既に破綻しています。
国民年金は所得に関係なく一定額(13000円程度)を納めるもの ですが、低所得者には大変な負担です。
また医師や弁護士など自営の高額所得者にとっては 給付が月額6万円程度と魅力のない制度になっており、自ら貯蓄や運用に励んだ方が良さそうです。 低所得者にも高所得者にも見放されている・・・これが国民年金の現実です。
■私たちのビジョン(民主党案)
人口が減る → 金が足りない → でも支出は減らせない → 収入を増やすしかない → しかしその上げ方が問題。 つまるところこういうことになります。
私たちは年金収支を構造変革を通じて回復すべきと考えています。
最も重要なことは、今後必要とされる負担増を現役世代に 押し付けても、さらに未納・未加入を加速させるだけで、 本質的な解決にならない、という判断です。負担は既に限界に達しています。
従って全世代で薄く広く負担する、すなわち消費税を原資とした 安定的な年金制度を再設計する必要がどうしてもあります。
今既に基礎年金の半分は税金で賄おうと議論されています(現行1/3)。
ならば万一未納の あなたにも、少なくとも半分は年金を受け取る権利があっておかしくない、 いっそこれを全部にすればいいじゃないか、簡単に言えばそういうことでもあります。
■もうひとつの問題、一元化
今、年金制度は、会社員の厚生年金、公務員の共済年金、自営業者の国民年金の大きく3つ に分立しています。
これは旧来の終身雇用制度が暗黙の前提になった制度です。
今雇用は流動化し、一生同じ企業はおろか、同じ業界に属することすら、前提とは し難い今日、手続き的にも簡素で、加入期間も通産される一元化された年金制度が必要です。
■なぜ小泉内閣からはこうした本質的な改革案が出てこないのか
答えはひとつです。小泉内閣は自ら真剣にこのことを悩み抜かず、 縦割りの官僚に任せているだけだからです。 だから時代に合わなくなっても、今の制度を 大事に守り抜き、数字のつじつまを合わせる作品しか出て来得ないのです。
なぜなら万一制度自体を見直すことになれば、社会保険庁を始めと した官僚組織の見直しは避けられず、官僚にとってはそこは聖域なのです。
つじつま合わせの官僚案を50年先を見越した”抜本改革”といい、 その法案を成立させたら、今度は数年かけてまた「抜本改革」を議論しようという・・・一体私たち 国民はこれをどう理解すればよいのか、情けない気がしてなりません。